夜間頻尿
就寝後に1回以上トイレに起きることを「夜間頻尿」と言います。夜間頻尿に悩む方の割合は年齢が上がるにつれ多くなり、60代以上で夜中トイレに起きているとされる割合は、なんと7~8割。よく眠れたという満足感が得られなかったり、昼間眠気に襲われたりと、毎日の生活の質に大きな影響を与えます。近年、新しく改訂された夜間頻尿診療ガイドラインには、患者さまご自身でできる行動療法や、新しい効果的なお薬のことも盛り込まれました。「年のせいだから仕方ない」と思われていた方、長らく諦めていた方も、まずはセルフチェックから取り組んでみませんか?
夜間頻尿の改善は、健康長寿のカギ
年齢を重ねた方では、夜間トイレに行く際に転倒を起こしやすく、転倒は骨折・寝たきりにつながる可能性があります。夜間頻尿は、その後の健康寿命に大きな影響を与えることがあるのです。東北大学の研究チームによる5年間にわたる追跡調査では、70歳以上の方で夜中トイレに2回以上起きる人は1回以下の人に比べて、骨折を起こす割合が2倍、死亡率が1.6倍になるというショッキングな結果も報告されています※。 また、熟睡できないことが引き金となり、不眠症や抑うつ状態を引き起こすリスクもあります。夜中にぐっすり眠って朝すっきりと起きる生活は、これからの人生を健康に過ごすカギとなります。
※ 波間孝重 「高齢者における夜間頻尿と死亡率・骨折発生との関連―大規模疫学調査からの検討―(2012)」 KAKEN(外部サイトへ)
夜間頻尿セルフチェック
ご自身がどのタイプにあたるのか、チェックしてみましょう!
受診するべきタイミング
夜トイレに起きる回数が60代の方で1回、70代の方で2回程度であれば通常の範囲と言えます。セルフケアで改善することもありますが、夜間に起きる回数が多く、日常生活に支障をきたすほどであれば、早めの受診をおすすめします。つらい・困っているとご本人が感じたら、夜間頻尿の治療対象となります。毎日のことですので、遠慮なく受診・ご相談ください。
また、すぐに受診すべき危険な状態もあります。例えば、上記のセルフチェックでDにチェックが付いた方で、血尿が出る場合は、がんや尿路結石症の可能性があり、放置することで病気が進行してしまう可能性があります。下腹部や泌尿器に痛みのある場合は、細菌感染などを起こしている可能性があります。これらの場合は早めに泌尿器科を受診してください。
夜間頻尿、原因別の対処方法
加齢以外にもさまざまな要因が複雑に組み合わさって起こることも多く、原因を1つに絞ることは容易ではありません。原因によっては専門科の医師による診察が必要なこともあります。原因を探り、適切に対策することで改善が見込めます。
タイプ A 水分のとりすぎ
夜間頻尿の原因で意外に多いのが、水分のとりすぎです。夜間頻尿の患者さまで水分を適正量まで制限したところ、夜間トイレに起きる回数が1回以上減ったという研究結果も出ています。「水分が不足すると脱水になって、脳梗塞などをおこすのでは?」と心配になる方も多いかもしれません。しかし、適切な水分量がとれていれば、脱水の心配はありません。
対策
- 適切な水分摂取量を守る=体重あたり20ml(体重60kgの方は1200ml)→1.5ℓを目安に
- 水分を取るタイミングに注意する=夕方以降は水分控えめに
- 利尿作用のあるカフェインやアルコールは夜控える
- 「寝る前のコップ一杯の水」を控える
- 水分の多いサラダや果物は夕食では控えめに
水分摂取量対策で効果がなかったら…
- 体内の水分がふくらはぎにたまっているかもしれません → タイプB(夜間多尿の原因2)へ
- 病気によって尿がたくさん作られているかもしれません → タイプB(夜間多尿の原因3)へ
タイプ B 夜間多尿
夜間に出る尿の量が多い状態、つまり、一日の総尿量の3分の1以上が夜間の就寝中に排出されている状態です。夜間多尿にもさまざまな原因があります。
夜間多尿の原因 1 水分のとりすぎ
原因1の水分の取りすぎも夜間多尿の原因になることがあります。
対策
上に記載されている対策を行います。
夜間多尿の原因 2 血液の循環が悪くなる
体内の水分量を一定に保つために、摂取した水分は尿として排出されます。しかし、下半身の筋肉の衰えや心臓や腎臓の機能の低下があると、重力の影響を受けた血液が下半身にたまり、むくみになります。就寝時に横になるとふくらはぎにあった水分が血管内に戻り、その水分が夜間に尿となって膀胱に蓄えられるため尿量が多くなって、夜中に何度もトイレに起きるようになります。
対策
ポイントは、昼間ふくらはぎにたまっている水分を寝るまでに血管内にもどし、尿として出してしまうことです。つまり、むくみと血行の改善です。必要に応じてお薬を飲んでいただくことで、さらに改善が見込めます。
セルフケア
- むくみ対策
- 昼間の弾性ストッキング着用、夕方の足上げ(仰向けになり足を高くして30分位過ごす)
- 血行対策
- 夕方のウォーキング(30分位)
水分(食事・飲み物)
- 食事
- 野菜や果物は、朝食や昼食を中心に摂取。食事に含まれる水分は意外に多く、夕食時にサラダや果物をたくさん食べると、夜間の尿量が増えてしまいます。
- 飲み物
- 飲み物から取る水分は一日1.5リットルを目安に。また、夕方以降は利尿作用や覚醒作用のある飲み物(カフェインやアルコール)を控えましょう。
塩分
塩分を多くとると、知らないうちにのどが乾き、飲水量が増えて、尿が多く作られてしまいます。市販の弁当や総菜などの味付けを濃く感じない場合は濃い味に慣れてしまっている可能性があり、塩分をとりすぎているかも?
お薬
- デスモプレシン
- 男性の夜間多尿に効果が認められていますが、副作用もあり注意が必要なお薬です。患者さまの状態に応じて処方します。
- 利尿薬
- 夜間頻尿の薬としては保険適用外です。
夜間多尿の原因 3 高血圧・糖尿病
血液中の成分量を一定に保つ機能により、余分な糖や塩分は尿として体外に排出されます。高血圧の方には塩分をため込みやすいタイプがあり、塩分を摂りすぎると、昼間だけでは塩分を排出しきれず、夜間も尿を作って排出しようとします。糖尿病の方は血液中の糖が多く、排出するために尿の量や回数が増えて脱水になり、のどが渇くため水を飲んで尿量が増えてしまいます。また、高血圧の治療薬としてよく使用されるお薬の一部も、夜間多尿を引き起こす原因になります。
対策
まずは高血圧・糖尿病の治療を行いましょう。夜間多尿の原因となる疾患の治療により、改善が見込めます。 当院の糖尿病内科について
セルフケアでの効果が実感できなかったら…
- 尿をためる機能に問題があるかもしれません → タイプC(蓄尿障害)へ
- 別の疾患や問題が隠れているかもしれません → タイプD(その他の原因)へ
タイプ C 蓄尿障害
膀胱に尿をうまくためられない状態を言い、いくつかの病気があります。代表的なものは前立腺肥大症と過活動膀胱で、それぞれの病気に対する治療をすることで夜間頻尿の改善が見込めます。
蓄尿障害のタイプ 1 前立腺肥大症
前立腺肥大症になると尿が出にくい、回数が増えるなどの症状が出てきます。夜間頻尿がこういった症状の1つとして現れることがあります。
対策
前立腺肥大症のお薬を飲むことで、夜間頻尿の改善につながることがあります。
55歳以上の男性の5人に1人は前立腺肥大症だと言われています。尿道の圧迫や膀胱の刺激により、尿が出にくい、回数が多い、トイレに行く前に尿が漏れる、残尿感があるといった症状も出てきます。
蓄尿障害のタイプ 2 過活動膀胱
過活動膀胱では少しの尿が溜まった状態でも過度に膀胱が収縮し、強烈な尿意を感じます。昼間もトイレが近いという場合は、過活動膀胱の可能性があります。年齢とともに膀胱の筋肉が衰えると、伸縮性が失われていることが原因で、膀胱にためられる尿の量が少なくなります。
対策
過活動膀胱に対するお薬を飲むことで、夜間頻尿の改善につながることがあります。
過活動膀胱は男性にも女性にも起こってきます。男性では前立腺肥大症が、女性では女性ホルモンの減少などが原因となることがあります。セルフケアとしては、膀胱訓練や骨盤底筋トレーニングも有効です。
タイプ D その他の原因
その他の原因 1 眠りが浅い
睡眠が浅いことで夜間に目が覚める状態を、夜間頻尿と捉えることがあります。
対策
睡眠が浅くなったり短くなったりするのは、年を重ねれば誰にでもあることです。また、昼間の活動量減少や自律神経の乱れも睡眠に影響を与えます。生活リズムを整え、適度な運動を行うことで、改善が見込めます。
その他の原因 2 睡眠障害を引き起こす病気
睡眠障害を引き起こす代表的な病気には、睡眠時無呼吸症候群・むずむず脚症候群・周期性四肢運動障害などがあり、夜間頻尿のリスク因子となります。
対策
睡眠や呼吸に関する専門医を受診しましょう。当院の睡眠時無呼吸症候群外来
その他の原因 3 尿路感染症
下腹部や泌尿器に痛みのある場合、膀胱炎や前立腺炎など、細菌感染を起こしている可能性があります。
対策
なるべく早く泌尿器科を受診しましょう。
その他の原因 4 泌尿器のがん・尿路結石症
血尿が出る場合は、がんや尿路結石の可能性があり、放置することで病気が進行してしまう可能性があります。
対策
なるべく早く泌尿器科を受診しましょう。
診療について
すっきりぐっすり排尿外来(泌尿器科)の診療は予約制です。
診療スケジュールについては、外来診療スケジュールをご覧ください。
お問い合わせはこちらまで ※受診は予約制です
桜十字病院
096-378-1111(代表)
(受付時間:平日 9:00~12:00 / 13:00~17:00)
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